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 3/8、総理大臣、厚生労働大臣宛に当会理事長名で提出した要望書


                                       2007年3月8日
内閣総理大臣 安倍 晋三 様
厚生労働大臣 柳沢 伯夫 様
                            NPO法人中国帰国者の会
                               理事長 石井小夜子
                     要望書

第1 基本的視点

1 中国残留邦人とは

 中国残留邦人とは、「お国」の国策で送出され、戦後の混乱、戦後の中国に取り残されている間もいつか「お国」が救い出してくれると信じ、その「お国」を唯一のよりどころとしてひたすら待ち続けてきた人々です。中国残留邦人の帰国後の生活実態は、過半が生活保護依存です。預金はおろか家財・不動産など何の生活基盤ももたずに帰国、その後も、ぎりぎりの生活保障であるとされる生活保護に依存した生活を送っていることによる困窮さは、たいへん厳しいものがあります。戦後の日本の繁栄を享受してきた者たちとの比較においては想像を超えるものがあり、そうした困窮さの長期化により、いまや、中国残留邦人は日本社会において低所得層に固定化されつつあります。しかし、中国残留邦人の多くは、こうしたつましく、ぎりぎりの生活を強いられながらも、今もなお「お国」を自らの生きてきた「証」としてのよりどころとして信じ続けている人々です。
 国は、中国残留邦人の積極的な帰国施策をとることなく、早期帰国の途を図りませんでした。さらには、そうした中国残留邦人に対する十分な自立支援施策も怠ってきました。特に終戦直後の「引揚者」と、長期にわたる日中国交断絶を経て、その後も長く放置された「孤児・婦人帰国者」の実態は全く変質していたにも拘らず、引揚者施策をその都度対症療法的手直しで帰国者に対処してきました。そこに問題混迷の根源の一つがあります。しかも「中国残留邦人支援法(平六法三〇)」が制定されても、議員立法の故か、行政側の施策検討・見直しは行われませんでした。この問題の基底にあるのは、国がこれを個人次元の問題として処理し、国の責任に向き合わなかったことにあります。 

2 国の責任
 中国残留邦人問題は、日本政府の国民保護という国家の枠組みに関わる国の義務放棄によって生じた問題です。しかもその義務違反が幾重にも重なって今日の事態を生じさせたものです。こうした幾重に重なる国の先行行為からいえば、国には自立支援義務がありますが、その不十分さにより厳しい生活を余儀なくされているのが、中国帰国者です。
 残留婦人の「強行帰国」を契機に「中国残留邦人支援法」ができました。早期帰国と自立支援は国の責務としたのがこの法律です。たしかに、帰国申請はそれまでと異なって残留邦人本人が可能となりましたが、この法律でも、「身元引受人制度」を残しています。また、自立支援といっても、僅かに年金特例が具体化しただけです。そのため、やむなく「生活保護受給」で生活しているのが大半です。「生活保護」は本来国の責任に起因しない生活困窮に対する社会保障政策であり、国の責任により生じた残留邦人の生活支援は別途の政策でなければならないはずです。
 
3 中国帰国者の現実
 圧倒的多くの中国帰国者は生活保護を受けながらほそぼそと暮らしています。その生活は想像を絶するほど貧しく、また、社会から孤立していることもよくわかります。孤立化し、疎外感を抱きつつ、「一体自分たちは何だったのか、何なのか」という自問をしながら、余命を生きているのです。それに加え、経済的支援のないまま生きざるを得ない中国帰国者は、二世家族にもその厳しい現実が連鎖し、確実に低所得層を構成しているのが現実です。

4 残留婦人も同等に
 日中国交正常化後、ようやく、「中国残留孤児」の肉親探し・帰国が本格的に再開されました。それでも、当初の施策は「孤児中心」で、「残留婦人」の存在は忘れられ、親族の受入れが得られない残留婦人は帰国できないままでした。1993年9月、受け入れ先のない残留婦人が12人の集団で「強行帰国」しました。細川総理大臣宛、「これ以上待っていたのでは生きているうちに祖国に戻れません。中国にはまだ2000人からの仲間が帰国できず泣いています。一日も早く、祖国に帰る喜びを与えてください。」という陳情文を携えてきました。この「強行帰国」は、残留婦人がなぜ早期に帰国できなかったかを、すなわち1で述べた「個人次元の問題」として処理してきたことを象徴した事件でした。国の施策は定着促進センターへの入所を機軸にしていましたが、残留婦人はその対象外であり、帰国についても、身元が判明している残留邦人は日本の親族の受入れか特別身元引受人(身元判明孤児は1989年から。残留婦人は1991年から)がいないと帰国できなかったのです。親族以外が帰国の手続をする場合でも親族の帰国についての同意を必要としていたのです。帰国についても自立支援についても「国の責務」とする「中国残留邦人支援法」では、「残留孤児」と「残留婦人」とでわけていません。今後の施策にあってわける必要はまったくなく、同じに扱うべきです。

5 考え方の基本
 施策を考えるためには以下の基本をはずしてはならないと思います。
第1に、この問題は国内問題にとどまらず、日中間にまたがる国際問題であることの認識です(それを欠くために、中国残留邦人家族や養父母の問題等さまざまな問題を起こしてきたのです)。
第2に、残留邦人の位置づけを確定することです。残留邦人は日本人か、それとも国籍を失った外国人か、です。判例の殆ど(就籍・国籍確認行政訴訟他)は日本国籍を認めていますが、法務省は帰国に際して外国人として入国管理法を適用してきましたし、未だにその正当性を強く主張しています。
第3に、自己責任原則を改めることです。援護施策は「中国残留邦人支援法」に定める「国等の責務」に立つことです(例―身元引受人制度廃止等)。
第4に、中国残留邦人家族の問題です。長期間帰国がかなわなかったのですから残留邦人に家族ができるのは当然です。中国残留邦人に準じた支援が中国残留邦人家族にも必要です。現在、同伴家族には若干の支援がありますが、他の家族は支援対象外です。しかも、中国残留邦人家族の法的地位は、今なお、「一般外国人扱い」され続けていることが新たな家族分離を生じさせようとしているのです。

6 今後の方向
 このような基盤の上に、施策を構築しなおすことが必要です。中国残留邦人の施策には、彼/彼女らの「人権回復」「人間回復」としての施策が不可欠です。その視点で早急に措置を要する問題と、本格的な施策の見直しがあります。まず、早急に措置を要する問題への対処です。例えば養父母問題、養父母の生活が窮状にあるという情報が伝わっています。その救済が必要です。また生活保護を受けずに働いてきた孤児・婦人たちも限界に来ています。実態に即した援護が急務です。一方、施策の本格的見直し、策定のため、「委員会・検討会」を設ける必要があります。基本方針確立、総合施策・具体的施策、関係省庁業務連絡調整組織の整備等、です。その範は、条約難民・北朝鮮拉致対策にもあります。残留邦人問題についてはボランティア活動が先行し、あるいは深く係わってきた経緯があり、その経験・意見活用は不可欠です。
 高齢になってしまった中国残留邦人に残された時間は短く、時間との戦いです。残された時間の中で、上記基本的視点をもって、一日も早く、中国残留邦人の「人権回復」「人間回復」としてのトータルな施策を策定すべきです。

第2 中国残留邦人(中国帰国者)の実態をふまえた政策を

 後述鈴木則子の要望書にある施策が必要ですが、それに加え、若干付言します。

1 援護対象者について
 長野県「中国帰国者愛心ネットワーク推進事業」では、国交正常化前帰国者も対象になっています。また、この関係の問題点としては、残留婦人は自費帰国者も相当おり、それも対象にすべく、その対象者の調査を進めていただきたいのです。また、「孤児」と「婦人」を分けないでいただきたい。さらに、家族単位の支援も必要であること、中国に残っている残留邦人の支援も不可欠であることを付記します。

2 中国残留邦人の生活課題について 
 以下のような問題状況があります。その実態を踏まえた施策が必要です。残留婦人は高齢であり、生活保護受給者が圧倒的に多いのですが、以下の事情にある人がいます。
(1) 公営住宅でなく、民間アパートに入居している人(公営住宅だと低収入の場合、かなり家賃低くなるが、民間だと一定額が必要)
(2) 年金のまったくない人もしくは低年金(月額3000円程度)の人
中国帰国者に対する年金特例は、「中国に住んでいた期間は、被保険者期間として保険料免除期間とみなす措置」です。但し、1981年12月以前の期間については日本国籍を有していた期間のみ対象になり、1982年1月からは日本国籍の有無にかかわらず対象になります。そこで、比較的早くに帰国し、中国での生活期間が25年を経過していないなどで、国民年金の受給資格期間がない人がいるのです(帰国後ずっと生活保護を受けていれば、年金納付は免除されるからその期間支払ったことになるが、帰国後、実家にいたりすぐに働いて年金を支払っていない人は受給資格がなくなる等)。また、残留婦人で「結婚」の関係で日本国籍なしとされ、「帰化」手続をとらざるを得ず、無年金や低年金の場合もあります。
(3) 残留婦人は、高齢で、今後働くことは不可能(敗戦時13歳以上なので、どんなに若くても74歳以上です)
(4) 残留婦人は、ほぼ病院通い

 以上の状況から、伝えられている与党案では、今よりも生活が苦しくなる人が大勢出ます。そこで、公営住宅に入居できていない人々に一日も早く公営住宅への入居を斡旋し、年金についても全員老齢基礎年金が支給されるように改善されるべきです。そして、上記の実情を踏まえて生活給付金を支給されたく思います(鈴木則子の要望書参照)。なお、残留邦人が死亡した場合は、給付金等は遺族が引き継ぐことができる制度であるべきと考えます。

3 国籍の問題
 残留邦人女性特有の問題としては「国籍問題」があります。詳細は、後述鈴木則子の要望書の付記にあります。これは本問題が国内問題にとどまらず、日中間にまたがる国際問題である一つの表出です。
(1)一つは、二世(三世以下も同じ)の国籍問題
父系主義であった1984年改正前国籍法の関係で、女性残留邦人の子どもは中国国籍にならざるを得ません(在留権問題・国籍取得問題等)。
(2)二つ目は、旧国籍法(1950年廃止)の適用により、外国人と結婚した日本人女性は日本国籍を喪失するという関係で、やむなく帰化手続をとる女性がいます(この問題は子どもの国籍問題や自身の年金問題等とも関係する)。「在留権問題」「国籍取得問題」や「年金問題」に直結する問題です。

4 二世・三世の対策
 下記鈴木則子の要望書にも触れましたが、支援策は、家族単位でなされるべきです。
二世・三世への支援は一世の支援にもつながるのです。上記国籍問題や在留問題の解決を含め、鈴木則子の要望にあるように、年金制度の確立が喫緊の課題です。また、就労支援・住宅支援も不可欠であり、日本語教育支援・教育支援もまた喫緊の課題です。

5 高齢化した養父母への支援
 高齢化した養父母たちに、これまで以上の支援をお願いします。

6 施策策定のための委員会設置を
 第1に述べた視点による施策の本格的な見直し、策定のために「委員会・検討会」の設置を求めます。その委員会等には、当事者及びボランティアの参画は不可欠です。

7 以上上記について、第1を踏まえ、どのような施索をとるのかご回答ください。



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