「中国残留邦人への支援に関する有識者会議」 2007年5月21日(第2回)傍聴記
この日は、「残留孤児」3名および蘭信三京都大学准教授の意見聴取が行われた。「残留孤児」のお一人が、給付金は医療費・住宅費含めて月額17万円でと述べられたが、別の方は、医療費は別途支給してほしいと言っていた。医療費・住宅費を含めて17万円だと、大変な人が出てくる。月額17万円案は年金2万円余を別途支給されることも考えているとは思うが、年金のない人や公営住宅に入れない人もおり、病気で通院・入院している人も少なくない。これでは、かえって今より大変になる人がでるおそれは高いと思う。蘭准教授は、「中国残留邦人の生きられた歴史と今後の課題」というレジメで整理をし、残留孤児・残留婦人問題は深刻だといわれた。だが、傍聴していて感じたことは以下のとおりである。
先行行為(戦中に軍事目的を背負わせて開拓団を送り出し、敗戦時に「現地定着」等の方針で切り捨てた日本の国の)に言及していなかった。これでは「残留」の原因が何かがわからない。国策で「満州移民」を行ったという政府の責任、その後も冷戦構造の中で、中国敵視の政策をとり続けたため戦後27年間も日中の国交がなかったこと、その間残留邦人の引揚げには全く消極的であったこと、しかも国交正常化後も帰国に際しては親族等の身元引受け等さまざまな障害を設けたなど、国の責任には触れなかった。蘭准教授の話は国交正常化後、少しずつ帰ってきて、今苦労しているという話になってしまっていたように思える。厚労省の責任が伝わらず、まるで弁護しているようにさえ聞こえた。生活支援がおろそかになっている。バブル崩壊後、日本社会にゆとりがなくなってきたからだと、社会の責任にしているように聞こえた。年金、社会行政を批判する視点に欠けているように思えた。引揚施策が支援策に転換した(厚生省が)。帰る時期が遅れたのも、バブル崩壊後に帰ってきたのも運が悪かったと。
しかし、堀田委員がその後の質問・意見で正しく指摘したように、引揚げ義務と支援義務は別々の問題ではない。いまでも帰国できない人がおり、引揚げ義務はいまもあるのだ。そして、引揚げが遅くなればなるほど自力での社会への適応は困難になるので支援義務は高くなるはず。一番疑問に思ったのは、岸委員からの「残留孤児問題、シベリア、サハリン、南米の引揚げとの共通点、違う点は」との質問に、すぐに答えなかったことである。共通点と違う点についてしっかり説明しないと、委員たちに対して、中南米、ドミニカ移民、サハリンと一緒かと思われ、新しい施策の根拠さえなくなってしまう。いずれも政府の責任であることは共通するが、シベリア抑留問題等とはまったく異なる。06年2月の東京地裁判決では、日本語能力のなさからくる労働能力の低下や社会適応の困難さを挙げている。「残留婦人は日本語能力があるのではないか」という人がいるが、孤立した生活の中で努力して保っていた人は能力があるが、まったく日本語能力を失ってしまった人もいる。簡単な日常会話はできても、読み書きのできない人も多い。それにたとえ日本語が話せる人でも帰国が遅くなったため日本での生活が困難になった。シベリア抑留者は高度成長期前に帰国が可能となっているのに対し、残留邦人はそれが終わった後である1972年の国交正常化後の帰国である。長い間冷戦状態にあり、日本政府の「中国敵視」政策が、残留邦人問題を継続させていたのである。冷戦体制の中でも、二つは対照的なことになっている。1956年の日ソ国交回復に当たっては、このシベリア抑留問題解決が最大の問題であった(共同宣言にもその帰国が入っている)のに比し、1972年の中国との正常化交渉にはこの「残留邦人帰国問題」は課題にさえ挙がっていない。国交正常化後の引揚(帰国)にはさまざまな制限を付したのも先ほど書いたとおりである。帰国が遅れれば遅れるほど社会で自立するのは難しい。
委員の発言の中に、軍人と民間人の引揚げの問題も出たが、軍人の引揚げはポツダム宣言9項に明記されている。民間人の引揚げは、ポツダム宣言の8項(カイロ宣言による日本領土の確定)による。「開拓民」を国策で送った「満州」は日本の領土ではないし、敗戦時の状況から見ても、一刻も早く引揚げ措置をとる義務が国にはあった。「満州地区」からの引揚げは1946年5月から開始されるが、軍人やその家族はソ連侵攻時、いち早く引き揚げている。しかし、日本政府は、「現地定着・国籍離脱」方針をとり、1945年9月24日の段階でも、「海外部隊並びに海外邦人に対しては極力之を海外に残留せしむ」(海外部隊並びに海外邦人帰還に関する件」(次官会議決定)としているのである。これが潰えたのは、GHQの指令であり、引揚が決まった。GHQは、「日本将兵の送還は、ポツダム宣言の条項に従って行われたものであるが、一般日本人の送還は人道上の理由による」としながらも、海外邦人の総引揚げを行わせた。厚生労働省はずっと、「援護局は軍人引揚の部署」と言い続けてきたのであって、中国との国交正常化がなされても、「ここは軍人の部署」と開き直り、民間人が身銭を切って動いても傍観していたのである。
今回は意見陳述者への質問が主であったが、堀田委員と金平委員は、国の責任として賠償が必要なのではないかと意見を出され、問題の本質を理解しているように思えた。
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