2008年3月14日、各自治体へ送付した「中国残留邦人『新支援法』に基づく運用についての要望」
平素から中国残留邦人(中国残留孤児、中国残留婦人)問題にご理解、ご支援賜りありがとうございます。当会は、貴長宛に、2007年11月4日付で「中国残留邦人『新支援法』の運用についての要望」を提出いたしました。その後、中国残留邦人支援法一部改正法が施行され、本格的な実施が4月に迫ってきました。
今回の新支援法制定の経緯は、いうまでもなく、中国残留邦人の国家賠償請求訴訟に端を発するものであり、安倍・福田各首相がこれまでの中国残留邦人に対する国の施策の不備に対する謝罪を行ったことに象徴されるように、中国残留邦人に対する援護施策の再スタートを意味します。中国残留邦人にとりまして、今回の新支援法は、もうやり直しのできない最後の施策として受け止めております。
しかし、年金や新支援給付を除く、地域での支援策は自治体における裁量に任されているものの、国の政省令の整備が遅れたため、自治体においては短期間での対応に迫られているのが現状です。今回の法改正においては地域支援が大きな意味を持つため、当会としても積極的に自治体への協力をしていく所存です。つきましては、運用において新たな追加項目として下記の施策を要望いたしますので、ご配慮いただけますようお願い申し上げます。なお、要望につきましては、3月31日までに末尾連絡先までご回答をいただけますようあわせてお願いいたします。
1 新支援法の位置づけ
中国残留邦人問題は、過去の国策に起因するだけではなく、早期帰国の措置も、帰国後の支援についても国の施策があまりに不十分だったため今日に至ったものである。その状態で(元)中国残留邦人(以下、単に「中国帰国者」とします)は高齢になり、生活苦の中で生きることを余儀なくされている。そこで、本支援策の運用も、上記国の責任及び中国帰国者の状況をしっかり鑑みて運用されたい。特に、地域支援事業が新たに自治体の役割として明示された趣旨を十分に理解し、従来の生活保護に通訳が加わるという認識ではなく、地域でより良い生活ができるよう積極的な施策を講じられたい。
2 新支援法についての全職員の理解
新制度が導入される際、担当職員のみの認識にとどまり、人事異動などで仕事だけが引き継がれ理解のない職員の対応も散見される。中国残留邦人問題の責任は「国」にあるが、公である自治体としても全職員で認識を共有することが必要である。福祉部門以外の部門に関わる課題もあるため、期首の訓示や朝礼などの機会で、担当職員以外にも新たな制度の導入を周知すること。
3 実態調査と新支援策の周知徹底
現在、年金や新支援給付の手続きの対応については、厚生労働省からの情報と自治体における生活保護の情報を元に実施されている。しかし、自費帰国者及び、帰国時の定着地から移住した場合の把握は困難である。また、新支援策には、二世三世も対象に及ぶので、この把握も不可欠である。今後も継続して実態調査に務めるとともに、広報において中国語訳を付した上、新支援策の周知徹底を図ること。
4 総合的・有機的に対応する中国帰国者専門部門の設置
新支援策は、生活保護の準用による部分が多くあるが、生活保護行政による支援ではないため、中国帰国者専門部門の設置を求める。複数部門に関わる相談でも一元化して対応できるようにすること。地域支援事業については給付事務に比べ広範な事業となるため、地域との連携や地域資源の活用等を含め、総合的・有機的に扱える専門部門の設置は今後の中国帰国者支援を円滑に進める上で不可欠である。
5 支援・相談員の任用、報酬について
新たに設置される支援・相談員の任用については、単に中国語を解するだけではなく、中国残留邦人問題への理解が深く、かつ中国帰国者から信頼を得ている者を採用すること。支援ボランティアや帰国者本人、配偶者、二世三世など登用することも充分に検討されるべきである。基本は市区町村により地域の人材を独自に採用することで長期的に地域との連携を図ることが望ましい。万一、初年度東京都から派遣を受ける場合でも次年度からは独自採用に向けて人材の発掘に努めること。
また、支援・相談員の数は、厚生労働省が示す基準を最低限として確保すること、単に生活保護世帯数で決めるのではなく、中国帰国者世帯数で決めること。
なお国が示す報酬では適切な人材を集めるには低過ぎるため、国に増額を求め、かつ、増額されるまでの間は、自治体独自に上乗せを行なうこと。
6 育成・研修体制の確立
担当部署の職員及び、支援・相談員、さらに通訳人、介護人等については、その育成・研修体制を確立すべきである。単に事務的なものだけでなく、歴史的背景を含めた研修が不可欠である。
7 定期的協議の場の設定
当事者の声が反映される場として「中国帰国者生活支援検討委員会」等を設置し、当事者及びボランティアとの定期的継続的協議の場を設け、実効ある運用に努められたい。
8 人権課題としての位置づけの明確化
中国帰国者問題は、戦後長期にわたって、自国への帰国を阻害されたことに起因する基本的人権の侵害にかかわる問題である。各自治体においては人権課題の一つに位置づけ、行政の責任において、差別・偏見の解消、人権回復に向けた取り組みに努められたい。
9 一般市民に向けの広報や講演会の開催
新しい制度の設立について制度と趣旨を広報等の掲載により一般市民にも周知と啓発を図ること。また、当事者を招いての講演会や関連する映画の上映などにより歴史的背景や問題の普及啓発を行なうこと。
10 地域支援事業の積極的展開
高齢化や言葉・慣習の違いから地域で孤立しがちなため、地域支援事業については地域の支援団体との連携により積極的に行なうこと。また、支援団体等がない場合は地域での福祉関係者等に呼びかけ受け皿となる活動が生まれるよう調整すること。また、在住者数が少ない自治体において運営が困難な場合は、自治体間で連携して共同事業として行なうことも検討すること。地域支援については厚生労働省の外郭団体が運営する「中国帰国者・支援交流センター」、東京都の「中国帰国者自立研修センター」との連携を図ること。
11 支援の対象とならない配偶者への配慮
新たな法制度においては、60歳未満で中国残留邦人本人が死亡した場合については配偶者に適用がされないという問題がある。生活保護を受給している場合は継続するだけでなく、該当者と同様の配慮や地域支援の対象とすること。また、生活実態に鑑み、例えば、60歳未満で中国残留邦人本人が死亡した場合についての配偶者や、生活保護を受けていない配偶者にも支援金の支給など、自治体の立場から国に法制度の改正を求めること。
12 従来の生活保護と同様のサービスの保障
新支援給付は生活保護制度の準用が多いが、生活保護ではないため他の制度の下で生活保護であるからこそ受けられていたサービスが受けられなくなるおそれがある。制度の趣旨からしてこれまで同様のサービスが保障されることが望まれるため、自治体が行なうサービスを点検し、従来より負担が増えることのないよう必要な措置を行なうこと。
13 二世等との同居への配慮
従来、二世世帯等との同居を望んでも生活保護制度の下では、経済的に裕福でない二世世帯が多く同居できなかった。ますます高齢化が進むため、本人が希望した場合は生活水準を維持したまま同居できることが望ましい。新たな制度では生活保護制度ではないため、住民票を分離して別世帯とする世帯分離により同居を可能にすること。
14 医療、介護について
同支援策には「病院への入院や通院、介護施設等の利用の際の派遣通訳」とある。通訳派遣を十分叶えられる人的措置を取られたい。また、中国語や文化の相違を理解するヘルパーの育成・採用が必要であり、多住地域では、専用の老人ホームやグループホームの設置も求められるので検討されたい。支援・相談員とは別に通訳を確保すること。また、中国語が可能な病院、介護施設の情報を自治体間で共有し当事者に提供すること。
15 都営住宅について
従来、早期に自費で帰国したり他県からの転入した場合は東京都の基準により都営住宅の優先斡旋がなされてこなかった。しかし、現在の法制度の下では帰国した事情によって区分する根拠はなく、また他県からの転入者に斡旋しないのは居住の自由を侵害するものと言わざるを得ない。自治体からも東京都に基準の改善を求めること。また、現在、希望者で都営住宅に入居できていない方がいる場合は東京都と協議し入居できるよう支援すること。
16 二世三世への支援について
二世、三世への支援については、同伴家族、呼び寄せ家族の区別なく、地域支援の中で積極的に行なうこと。国の対応の遅れにより問題が家族に拡大したことから、日本語教育、就労支援、生活保護の適用などにおいても十分に配慮すること。
17 学校教育等
中国帰国者の家族で学齢期にある児童・生徒においても文化や習慣の違いによる障壁は長期に及ぶ。帰国直後に際しての手だてにとどまらず、帰国後の経過年数に応じて適切な手だてが必要である。とりわけ、学校教育においては、中国帰国者の家族で学齢期にある児童・生徒の受け入れ態勢を明らかにするとともに、担当教員や通訳員・学習支援員などの配置をし、円滑な適応がなされるよう配慮されたい。各教育機関に在籍する中国帰国者の家族の正確な把握に努め、特別な手だての事業の策定・継続・充実に努められたい。そのためにも、在籍状況及びその施策内容等の詳細なデータの把握は不可欠である。